ウイッグの相談の際には「自然なウイッグってどれですか?」「つむじが自然なのがいいんですよね」などと問われることがよくあります。ウイッグを取り扱う会社の方々は、普段の接客の中であまりにも当たり前になっていて、不思議に思わないかもしれませんが、今一度患者さんがなぜ自然なウイッグを求めるのか?を考えてみることも大切だと思います。
私たちが以前に行った研究によると、治療による脱毛は、@自分の姿が変わってしまうことによる「自分への違和感」や「自己像のゆらぎ」 だけでなく、A脱毛することで、周りの人たちと今まで通りの関係でいられなくなるのではないか?という不安ももたらすことがわかっています。Aは、脱毛を周囲に知られることで、自分ががんだとわかってしまい、「この人はがんになった可哀想な人だ」「もうすぐ死んでしまう人だ」「先々あてにならない」などと思われ、今までの対等な人間関係ではなくなるのではないかとの心配です。
がんの患者さんがウイッグで隠したいと思っているのは、単純に脱毛した頭ではなく、この脱毛に象徴される病気や死、あるいはそれがもたらす変化であることがポイントになります。患者さんが「自然な髪」を求める時には、単に髪型や髪質の問題ではなく、がんや死を感じなない自分らしい姿であり、また、周りの人との対等な関係が維持できる自分であること、つまり病気になる前の自分と同じようでありたいという思いがあります。
ところが、こうした思いを抱える患者さんに製品機能として「自然さ」(例えば、地肌が自然、つむじや分け目が自然・風合いが自然・人毛で自然など)を強く主張することは、「ウイッグは自然なものではないから、できるだけ自然に見えるものを選ばなければならない」というメッセージを発することでもあり、そのこと自体が「ウイッグを装着していること(=がんであること)は今までのあなたと違う」「ウイッグを装着していること(=がんであること)は隠さねばならない」「がんでも今までと同じ姿を装わなければ、今まで通りの人間関係を保てない」というメッセージを逆説的に発し、患者さんを脅かすことにもなります。
重要なことは「髪」というパーツが自然であることよりも、その人が気にいったウイッグをかぶることで、振る舞いが自分らしく自然になることにあります。そのためには脱毛にちゃんと対処しているという実感や、外見の変化を自分でコントロールできているという感覚を持つことが大切です。実際、そのような感覚を持てた人の方が、心理的well-beingが高いと指摘する研究もあります。 |